秋田米を全国へ「一乃穂」は秋田米で作った秋田しとぎ菓子をお届けしています |
その壱◆お餅の原型「粢(しとぎ)」 どこか潤沢な響きを持ち、しっとりと水分をたたえた色白美人をも連想させるこの呼び名…。 「粢(しとぎ)」とは、「水に浸して柔らかくした生の米をついて粉にし、それを水でこねて丸めた食べ物」のこと※。米を原材料としたこのシンプルな食べ物は「餅の原型」ともいわれ、古くから神前のお供えものとして欠かせない存在でした。たまご形のものが一般的で、これに砂糖を加えればお菓子に、火を加えて固めたものがいわゆるお餅になります。 はるか古代から、水耕稲作文化を受け継いできた国、日本。大地とお天道様からの恵みを受けて、全身全霊を傾け育くんだ「お米」が「次」に姿を変える時、それは「しとぎ」となります。この小さく丸い物体には、人々の自然への感謝、豊作祈願、そして幸福を願う心がこめられて、大切に大切にお供えされてきたのです。 ※米のほか、粟(あわ)、稗(ひえ)、黍(きび)、豆、椚(くぬぎ)の実、楢(なら)の実などを粉にして水で練って団子状にしたものを、粢(しとぎ)と呼んでいた説もあります。 |
その弐◆全国各地の「しとぎ」 「粢(しとぎ)」の食文化は、全国各地にみられます。九州の一部の地域では、餅そのもの、あるいは米の白粉のことを「しとぎ」と呼ぶ習慣があるそうですが、「しとぎ」と名を冠した食べ物は、とくに北東北を中心に残っているようです。 多くは、単に「しとぎ」と呼びますが、神前に捧げるものとして「おしとぎ」と敬称したり、あるいは白くて丸い形状から「しとぎだんご」「なまだんご」「おしろもち」、ちょっとなまって「すっとぎ」と呼ばれることもあるようです。食べ方としては、米粉を練って丸め、たまご形の団子状にして食べるのがほとんどですが、八戸地方では「豆しとぎ」と呼ばれるように、青大豆をすったものをねりこんで食べることもあります。呼び方、形、食べ方は異なるものの、これらはいずれも「ハレの日の神前に供える」という点では共通しています。風習の違いには、それぞれの地域における「しとぎ文化」が映し出されているといってもよいでしょう。 ちなみに、現代朝鮮語では「餅」のことを「ットク(ttek)」と言いますが、古語では「ストク(stek)」と呼ばれていたそうです。「餅」のことを「しとぎ」と呼ぶルーツは、このへんにあるのかもしれませんね。 |
その参◆しとぎをいただく「ハレの日」って? そもそも餅類は「ハレの日」の食べ物。その昔、お米は今日のような日常食ではなく、神聖な「お供えもの」でした。祝い事や祭りなどがあった時、あるいは神前から下げた時にのみ初めて食すことのできる、最高のごちそうだったのです。白米や黒米(精白前の玄米)を捧げることもありましたが、通常神前に供えられたのは「焼米」や「しとぎ」。「ハレの日」とは、神様と同じものを食すことのできる大切な日、それだけに格別あらたかな気持ちでしとぎや餅を口にしてきたことと思われます。 今でも人生の節目節目になると、必ずといっていいほどお餅が登場します。年中行事はもちろん、冠婚葬祭や出産祝い、お祭り、上棟式など…。餅類はこのような「ハレの日」と日常生活とを区切るアクセントであり、それをいただくことは日々の平穏な暮らしを願う、ささやかなおまじないだったのかもしれません。 |
その四◆こんなにある「お餅を食べる日」
ほかにも、節句につきもののお餅として、正月餅、節分餅、桃の節句餅、端午の節句餅などが挙げられます。初午、田植、七夕、お盆、お彼岸、刈り入れ、季節の区切りなどでは、今でも伝統的にいただきます。喜びや願いが託されているお餅、あなたのお宅ではどれくらいの頻度で召し上がっていますか? |
その伍◆「しとぎ」は郷土を伝える味 米を主食とする日本では、各地に郷土色豊かな餅料理が伝わっています。「餅に百味あり」といわれるように、餅も十人十色、そこで暮らす人の数だけ食べ方があるといってもよいでしょう。たとえば、米どころの代表的な餅料理をあげてみると… 新潟の有名な「笹団子」は、うるち米でつくった草餅の中に、あんこを入れて笹でくるんだもの。信州長野・飯田に伝わる「五平餅」は、炊きあがったお米をすりつぶして、割木に平らにつけ両面を焼き、これに味噌やショウガ入りのしょうゆを塗ったもの。また、「五平餅」と製法はよく似ていますが、秋田では炊いてつぶした米を、杉の串に練りつけて焼き上げた「たんぽ餅」が有名です。 対して「しとぎ」は、このような土地を代表する餅料理とは違い、そのシンプルな製法どおり、民間の神棚で、あるいはお祭りで、ひっそりと受け継がれてきた神聖な味です。「ご当地物」と話題になるほどの派手さはありませんが、しかしそれだけに、人生の節目節目を彩る大切な存在としてさりげなく、またその土地ならではの風習や民俗、そして人々の願いを映し出す鏡として、暮らしの真ん中にいつも存在してきたといえます。 素朴さをそのままに残す「しとぎ」。その風情あふれる味は、いつまでも語り継いでゆきたいものです。 |